妊娠中に多い耳管開放症
耳管開放症
耳管開放症について
- 耳管開放症とは
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鼓膜の内側(中耳や鼓室といいます)とノドの奥を連絡する管を“耳管”といいます。
通常耳管はツバを飲み込んだ時のみ開き、定期的に中耳の換気を行いますが、何らかの原因により、耳管が開いたままの状態になり、種々の不快な症状を引き起こす状態を“耳管開放症”と呼びます。耳管開放症は妊婦の方でも多く、妊娠中期以降に起こりやすくなります。
また、確定診断をつけるために耳管機能検査を必要とする場合がありますが、そのための器械がある医療機関は少ないです。当院で検査は可能ですが、当日は施行できません。まずは診察させていただき、医師が適応と判断すれば検査を選択肢として考慮し、それが患者様のご希望に沿ったものであれば、予約(平日15:00頃のみ検査可)をお取りいただく形になります。
(当院ではこの検査は治療のために必須とは考えておりません。特に妊婦の方)
- 耳管開放症の原因
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・体重低下(急激な減量) 妊娠 ・ピル内服 ・脱水 ・加齢 など
急激な減量や脱水により、耳管回りの脂肪や水分が減り、耳管が開いたままになります。妊娠中はホルモンバランスが影響して耳管開放症になりやすくなると考えられています。
特にたくさんお話するご職業ですと辛いことが多いため、アクティブに活動されている妊婦の方でお悩みの方も多いです。耳管開放症であれば、妊娠が原因の場合は妊娠が終了すると自然治癒します。しかし、症状は似ていても他の病気のこともあり、その他の治療が必要な病気でないか注意を要します。
- 耳管開放症の治療法
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耳管開放症であれば放置しても、不快な症状が続くだけで聴力の悪化や耳の機能低下を起こすことはありません。しかしながらその不快な症状を除去したい場合、治療の対象となります。鼻すすりを極力しないようにした上で、妊婦の方でなければ急激な減量や脱水が原因の場合、体重を元に戻す、普段から多めの水分補給を行うなどの対処法が有効です。4、5分横になるだけでも、一時的には改善します。
妊娠が原因の場合は妊娠が終了すると自然治癒するため、他の鑑別を要する疾患ではなく診断がついて安心されたということであれば薬は必ずしも必要ありません。
どうしてもお辛いようであれば対症療法としてご希望に応じて薬(比較的使用しやすいのは漢方薬)を使用する場合があります。妊婦の方であれば、妊娠5ヶ月以上になってから産婦人科の主治医の許可をとってからの方が望ましいです。また漢方薬は通常は複数内服するものではないため、産婦人科などから既に漢方薬を御処方頂いている場合は、産婦人科の主治医の先生の方針を優先して内服してください。
・漢方治療 (加味帰脾湯(かみきひとう))
加味帰脾湯という漢方薬を使用することで約70%の方が症状改善するという報告があります。一般の方であれば1~3ヶ月薬を継続し、症状が安定してきたら薬の漸減を行い薬の中止を検討しますが、妊娠中はより短期間の必要最小限にするべきかと思います。
また、妊婦の方でも禁忌となるような成分は入っていないため比較的内服しやすいもので、産婦人科では妊婦の方への鉄欠乏性貧血に対して使用されることもあるようです。
虚弱体質で、顔色が悪く貧血気味で、不安、焦燥感、不眠、うつ状態、胃腸症状などが強い場合にもよいとされています(絵でわかる漢方処方解説シリーズより)。
・漢方治療 (補中益気湯(ほちゅうえっきとう))
体力虚弱が背景にある場合は、補中益気湯という漢方薬が有効なこともあります。妊婦の方の痔疾患(特に脱肛)に有効なこともあるようです。
比較的体力が低下した人で、全身倦怠感があり、言葉や目に力がなく、口に白沫が出る、食欲不振、咳嗽、微熱、寝汗、日中の眠気、動機、不安などを訴える場合に用います(絵でわかる漢方処方解説シリーズより)。産後などで衰弱している場合などにも用いられます。
お薬を使用したくないという場合、もしくは内服薬との併用治療として
・生理食塩水点鼻療法
鼻の奥に耳管の入り口(耳管咽頭口)があります。鼻から生理食塩水を入れることで、耳管咽頭口経由で垂直方向になった耳管内へ生理食塩水が流れ込むようにするものであり、症状を一時的に緩和させる効果があります。
生理食塩水点鼻療法は、生理食塩水のみを使用するので妊娠されている方でも安全に使用できます。軽症例ではこれのみで十分な改善が得られ、使用回数、量に制限もありません。
点鼻は,仰向けまたは座ったまま、頭を後ろに下げかつ症状のある側を下にして行います。通常は仰向けがお勧めですが、お腹がかなり大きくなった妊婦さんの方は、仰向けより座ったまま行った方が楽な場合があります。点鼻した大部分は咽頭に流れてしまいますが、その一部分が耳管に侵入し,耳管内腔を狭小,閉塞します。そのため,的確に点鼻をすれば、点鼻直後から症状軽減を自覚できます。1 回の点鼻で数滴~数ml,症状が消失するまで点鼻を行います。点鼻しただけでは効果が得られず、やり方も大切になります。コツとしては、頭部を水平かやや後方に倒した位置にし、さらに患側に頭部を約45度以上回旋した位置で、生理食塩水を患側鼻内へ滴下します(受診時には写真入りの資料をお渡しします。)まれに点鼻した生理食塩水が中耳腔内に侵入し耳痛,異和感を感じることがありますが、水は自然に蒸発しますし、自然に回復するのを待って頂いて問題ないです。
・スカーフ、ネクタイで一時的に首を圧迫
突然に症状が強くなった時に、首に巻いているスカーフ、男性であればネクタイなどで、自然な動作で首を少し締めて一時的に圧迫することで、頭が一時的に血液の多い状態になり、耳管がむくんで一時的な症状の緩和が期待できます。たとえば仕事で会話中の時に突然症状が出た時の対処法として有効です。ただし、長時間行わないように十分気をつけて下さい(妊婦の方は特に)。
・耳管ピン
他の治療が無効で、症状が強い場合、「耳管ピン挿入術」という手術を受けることで改善されるという報告もありますが一般には普及しておらず、妊娠中の方には勧められません。
- 妊婦専用耳鼻科外来枠について
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妊婦専用耳鼻科外来枠についてはコチラ
月曜・火曜・木曜・金曜15:00(耳症状についての相談の場合:14:45)
(近隣(渋谷区、新宿区)にお住まいの方や新宿近辺にお引っ越しをご検討の方であれば、小児科への出生前訪問(プレネイタルビット)にもなりますので、ご希望ございましたら電話(050-3090-0203)でご予約時にお申し出ください。)
<監修者情報>
木村 暁弘 院⻑
平成16 年東京慈恵会医科大学卒業。その後研修医として耳鼻科の専門性を高めるため、耳鼻咽喉科学教室に入局。同大学病院と関連病院にて耳鼻咽喉科診療、睡眠外来に従事し当院開院。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医。いびき・睡眠時無呼吸症候群などの睡眠医療を専門とし、耳鼻科・小児科の連携による子どもから大人まで三世代が受診しやすいクリニックづくりをモットーとしている。
日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、日本睡眠学会認定専門医、補聴器適合判定医